わたしのKyoto in Tokyo vol.1 京都館館長・小山薫堂さんと行く、“京都らしい”銀座と神楽坂の3スポット

「東京で京都を感じる」スポットを、各界の“京都通”に案内していただき、「京都らしさ」の正体を掘り下げるこの企画。
第1回目は、京都館館長である小山薫堂さんがご案内。銀座の「歌舞伎座」と「月光荘画材店」、そして神楽坂の「御座敷天婦羅 天孝」。それぞれ異なる3軒には、どのような「京都“感”」があるのでしょうか?

<プロフィール>
小山薫堂(こやま・くんどう)
放送作家。脚本家。京都造形芸術大学副学長、京都館館長、下鴨茶寮亭主。
1964年6月23日熊本県天草市生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。脚本を担当した映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。
執筆活動の他、地域・企業のプロジェクトアドバイザーなどを務める。熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。

文・編集部 写真・是枝右恭

総合芸術としての
「歌舞伎」に感じる京都

伝統の桃山様式を踏襲した歌舞伎座の正面

はじめに訪れたのは、東銀座のランドマークである歌舞伎の殿堂・歌舞伎座。小山さんは、小学生の頃から歌舞伎座に馴染みがあるそう。
「当時新小岩に住んでいた叔母が歌舞伎ファンで、東京に出るたび連れられて通っていましたね。なんの演目だったかは分からないのですが、僕はすごく笑っていた(笑)。歌舞伎ってこんなに面白いんだって感じたのを覚えています」
歌舞伎座は、2013年に第五期歌舞伎座としてリニューアル竣工。戦前の第三期からの外観を踏襲しつつ、最新の技術を採用。そして、歌舞伎座の背面には、オフィスビル「歌舞伎座タワー」が建ち、歌舞伎座屋上を使った庭園と、歌舞伎の歴史に触れるギャラリースペースが新たな見どころとして加わりました。こちらは、小山さんも初めて訪れたということです。

屋上庭園を散策する小山さん

歌舞伎座の瓦屋根を望む「五右衛門階段」

庭園の端から下のフロアにつながる階段は、「五右衛門階段」と呼ばれています。案内に同行いただいた株式会社歌舞伎座の近藤さんにその由縁を聞きました。
「京都の南禅寺を舞台にした演目『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』で、石川五右衛門が『絶景かな、絶景かな』という有名なセリフを喋るシーンにちなんで『五右衛門階段』と名付けました。歌舞伎座伝統の瓦屋根を近くで見られるところを作りたかったんです」

模型を見ながら語り合う、近藤さん(株式会社歌舞伎座)と小山さん

階段の先のフロアには、建築模型や資料を通じ歌舞伎座や戦後の歌舞伎の変遷を紹介する「ギャラリー回廊」があります。近藤さんの説明に耳を傾けながら、熱心に模型に見入る小山さん。
「明治初期の洋館のしつらえから和式に立ち返っていったのが面白いですよね。歌舞伎って、歌舞伎を中心に、伝統工芸や音楽(長唄)、美術、そしてこの建築と一流の職人技術が組み合わさって劇場が維持されている。視点を変えれば、一つの場をハブにして、周囲の文化に成熟のタネを蒔いてもいるんです。それは華やかな祇園文化を様々な職人たちが支えているのと同様のあり方で、そこに京都らしさを感じたんです」

歌舞伎座 東京都中央区銀座4-12-15
https://www.kabuki-za.co.jp/
*紹介した見どころはすべて入場無料。歌舞伎座のwebサイトを参照ください。
公演情報は https://www.kabuki-bito.jp/ より。

月光荘画材店の「広げるのではなく“深める”」スタンス

月光荘の看板商品であるオリジナルの絵の具

続いて訪ねたのは、銀座8丁目の「月光荘画材店」。大正6年創業の画材店として、多くの画家や美術ファンに愛されるお店です。小山さんは、3代目で現代表の日比康造さんと話しながら店内を物色。
「初めて来たのは、10何年前だったか……(笑)、はっきり覚えていません。銀座を歩いていて、ふらっと入ったんです。感じたのは、『東京らしからぬ店』だなと。ビジネス的発想よりも、まず自分の美学に基づき、目が届く範囲できっちり商売をされている。それによって結果的に、歌舞伎と同様、周囲に文化の種を蒔いている」
小山さんは2代目の日比ななせさんと縁が深く、康造さんとはこの日が初めての顔合わせ。
「全て自家製というのはビジネスの側面から見れば厳しいのですが、最後まで責任をもった商売というのは常々意識しています。それは月光荘の代々の意志ですし、僕も、広げることよりも“深める”ことが好きなんです」と日比さん。
「それは素晴らしいですね! 京都の個人店にも、そのように一つの美学を掘り下げているお店が多いと感じます」

ポストカードを品定めする小山さんと代表・日比康造さん

自身で愛好する以外にも、プロデュースを手がける日光金谷ホテルの一室のアメニティにスケッチブックを置くなど、月光荘のプロダクトを高く評価する小山さん。
「メモ帳や、オリジナルのバッグはよく購入しています。このお店の絵の具が使いたいがために、普段描かない絵を描いて失敗したり(笑)。画家としても活動する吉田照美さんの還暦のお祝いに、赤い絵の具をセットでプレゼントしたこともありますよ」
そんな月光荘ファンの小山さんが、特におすすめしたい一品は何でしょうか。
「オリジナルのポストカードです。図柄とことばの組み合わせがじつに秀逸。誰かに贈ろうと思って買うんですけど、惜しくなっちゃって結局送らない(笑)。これは、どなたが描いているんですか?」
「創業者である私の祖父・橋本兵藏とゆかりのあったアーティストたちや、最近では公募で採用した作品に、僕自身が詩を付けたものもあります」
「それも買っとこう(笑)。どの品物もそうですが、理屈だけの商品というより、ちょっとずつ“温度”があるんです。それが月光荘のものづくりの魅力です」
月光荘の製品は一つ一つ、職人たちが丁寧に手作りしているもの。特に絵の具は混色したときの発色の彩度が鮮やかなままなのです。「本物の色の輝きに出会って感動してほしい」という先代からの思いを大切に受け継いで守り続けているそうです。

人気のスケッチブックやカバンなど、オリジナル製品が所狭しと並ぶ店内

さらに月光荘は6年前から、近間のビルの屋上で「月光荘サロン 月のはなれ」を運営しています。100周年を記念して、日比さんが主体となって始めたカフェです。
「今後の目標は、絵を楽しむ文化を日常に広めること。その取り組みの一つがこのカフェです。店内に展示される作品が、2週間毎に入れ替わるのです。また私自身が音楽家ということもあって、飲食や美術のみならず、生演奏も堪能できる場としてお楽しみいただいています」
銀座の真ん中とは思えない、隠れ家サロンのようなテラスカフェ。毎晩の生演奏をバックに、本格派のガンボとクレオール料理を楽しめるお店です。銀座を訪れた際はここで一息ついてみてはいかがでしょうか。

月光荘画材店
東京都中央区銀座8-7-2 永寿ビル1F・B1F
http://gekkoso.jp/

月光荘サロン 月のはなれ
東京都中央区銀座8-7-18 月光荘ビル5F
http://tsuki-hanare.com/

*公開中の映画「天国でまた会おう」とのコラボレーションイベントを開催中。映画を見てから月光荘へ行くと、特典プレゼントがもらえます。詳細はこちらまで。月光荘の展示等の催しは、月光荘HPを参照ください。

神楽坂の名店・天孝のこだわり

神楽坂の中でも特に旧い路地にある「天孝」

最後のスポットは、神楽坂の「お座敷天麩羅 天孝」。京都ファンにはお馴染みかもしれませんが、大正時代に花街として栄えた神楽坂は旧い路地や旧家を残す佇まいから、「小京都」と呼ばれることもあります。
「江戸の頃の路地感が残っているのが、京都らしさに通じるのかもしれませんね。月島の裏手の方の街並みや、広尾の一部のエリアなどでも、同様の印象を受けます」
入り組んだ路地の奥にある「天孝」は、初代の新井孝一さんが作る天ぷらに惚れ込んだ神楽坂の芸者が新井さんに独立を勧め、その自宅の一階を借りて1977年に創業したお店です。現在は2代目の新井均さんが切り盛りしています。
「このお店の一番の特徴は、珍しい才巻海老。生後3ヶ月の車海老で、甘みのある風味がなんとも言えません。特にオススメしたいのは、他のお店では味わえない『海老の髭の天ぷら』。実はこの品はメニューには載っていないので、これを揚げてもらえるようになったら常連かもしれません(笑)」

特注の掘りごたつ式の座敷で、天ぷらを揚げる準備をする2代目・新井均さん

30匹分の海老の髭を束ねて揚げる、絶品の海老の髭の天ぷら

カウンター8席と、1日1組限定の個室座敷だけの店内は、そのしつらえも見どころ。小山さんと長年の付き合いだという新井さんは、敷居の高さを感じさせない気さくな人柄で人気です。 「天ぷらは、江戸前料理の代表格。僕らも江戸野菜を取り入れたりしていますが、京都のあり方を意識する部分はあります。対抗するわけではないのですが、“江戸前とはなんぞや”というところを掘り下げていきたいですね」と新井さん。
「初代の孝一さんから、やりたいことを突き詰める天孝さんの雰囲気は、京都の割烹の雰囲気に似ていますよね。最近は、新井さんがセカンドブランドとして手がけた別店舗『天婦羅 あら井』もあります。僕も事務所の忘年会でお世話になりましたが、こちらはもう少しカジュアルで入りやすいかもしれません」

神楽坂 御座敷天婦羅 天孝
東京都新宿区神楽坂3-1
http://kagurazaka-tenko.jp/
天婦羅 あら井
東京都新宿区神楽坂4-8 AGEビル B1
http://tempura-arai.jp/

薫堂流・京都らしさとは、
”美学のある心地よさ”。

「月光荘 月のはなれ」でインタビューに応じる小山薫堂さん

ここまで、歌舞伎座、月光荘、天孝とそれぞれ異なるスポットを小山さんに案内していただきました。これらに共通する「京都らしさ」、つまり「京都“感”」をまとめていただきましょう。
「京都での仕事が増えるにつれ、『京都らしさ』って何なのか考える機会が増えました。今のところの結論は“美学のある心地よさ”じゃないかと思うんです。
たとえば、老舗の料亭『下鴨茶寮』を引き継ぐとき、京料理の本質は何なんだろう、とよく考えていました。それで料亭・菊乃井の村田吉弘さんに聞くと『寸法や』って言うんです。宮中懐石をルーツに、食を楽しむための繊細な食感やサイズのバランスが脈々と磨かれて、今の京料理が出来上がったというわけです」
なるほど……、それは、料理に限った話ではなさそうです。
「物理的なサイズに限らず、精神的なサイズもあります。伝説的なフレンチのシェフであるジョエル・ロブションが晩年に作った店が、敬愛した『すきばやし次郎』の店と同じ幅の小さなカウンターを使っているのは有名な話ですが、だだっ広い空間より、程よく狭いところの方が食事はおいしかったりする。空間の居心地や、店内の距離感、またお店同士の距離感。いわゆる東京的なビジネスでは、土地代の都合もありますが、まず予算に基づいて逆算してサービスを提供するイメージがあります。でも、京都の商いはその逆。人が喜ぶ“心地よさ”を優先して、美学をもって追求するのが京都の文化じゃないかなと思います」
たしかに、今日うかがったスポットは、どれもそうでした。
「月光荘と天孝の、横に広げていくのではなく、縦に深めていく姿勢はまさにそうですね。また歌舞伎座のように、結果として周囲の文化に成熟の種を蒔いていることも京都のあり方に通じます。だから、京都はいつ行っても『いいなあ』と思いますよ。いわゆる“京都人”のイメージには反して、忌憚のない意見を言ってくれる人が多い気もします(笑)。それもやはり、美学があるから。それと、外から取り入れたものを自分色に染めるのもうまい。だから東京のお店もどんどん京都に進出したら面白いなと思っています」
そんな京都らしさには、自身のクリエイティブへの影響もあるといいます。
「目指すべき姿だな、といつも感じています。僕もそろそろ晩年を意識するのですが、その頃には、憧れの京都の職人さんたちのような仕事の仕方をしたいものです。“ウェルメイド”という言葉も合いますが、京都風にいえば“ほんまもん”。そういうものづくりに、皮膚感からの心地よさを感じますね」