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京都館

京都の浴衣のお誂え会。
渋谷のホテルで、やってみました。

着物、小物、工芸、香り…。京都には「お誂え(オーダーメイド)」で楽しめる品々がたくさんある。ただ、ちょっとだけ飛び込むのには勇気がいるもの。そこで3月14日に「大人の浴衣お誂えのコツ」として、京都のお誂え文化を身近に感じてもらおうとイベントを開催。京都の老舗呉服「藤井絞」の藤井浩一さんを渋谷の新名所『hotel koe tokyo』に招き、お誂えのカンとコツを教えてもらった。また同ホテルのデザインを手がけた川上シュンさんが参加し、新たな浴衣デザインの構想を公開ブレストも。さて、どんな化学反応が起きたのか。

ゲスト:藤井浩一さん・藤井絞株式会社代表取締役

大正4年創業の絞り染め呉服製造卸業である藤井絞株式会社の4代目。埋もれていた絞り技術のひとつである「雪花絞」を復刻させて、浴衣型にして人気を博す。また京都染織の最高峰の作り手11社のグループ「きものアルチザン京都」を率いて、「きものを未来へ」をテーマに国内外で京都の染織をPR中

ゲスト:川上シュンさん・アートディレクター

アートとデザインを基軸に、ブランディング、映像、プロダクトと、ジャンルをまたぐ包括的なアートディレクションを行う。主な実績にMIST HOTEL (中国・鄭州)、hotel koe tokyo、フォーシーズンズホテル京都、瀬戸内青凪、ホテルリズベリオ赤坂、ホテルカンラ京都、里山十帖など、日本を代表するホテル、インテリアショップ、ファッションブランド、飲食店など様々な業界から依頼を受ける

モデレーター:各務亮さん・電通京都支社 プロデューサー

電通京都で、グローバル企業の海外戦略を担当しつつ、伝統工芸の海外発信プロジェクト「GO ON」、太秦映画村を大人のエンタメパークとして再起動させた「太秦江戸酒場」など各種文化施策プロデュースにとりくむ

■発祥はアフリカ?
着物を染める最初の技術“絞り”

左から川上さん、藤井さん、各務さん。公園通りを拝む『hotel koe tokyo』のスイートルームで1300年続く絞り染めの話し。不思議とマッチする。

各務 藤井さん、まず伝統工芸でもある「京鹿の子絞り」について教えて頂けますか?

藤井 はい。「絞り染め」の技法のひとつです。絞り染めはアフリカ等が起源とされ、2000年ほどの歴史がありますが、日本には1300年前、奈良時代にシルクロードを渡って伝わってきたといわれています。そして京都で発展したのが「京鹿の子絞り」というわけです。
布の一部を糸で縛りつけ、染めない部分をあえてつけて染色する。すると、染まらない部分が模様となって美しく残ります。できた模様が子鹿の背中の斑点に似ていることから「鹿の子」と言われるゆえん。また絹の着物や帯に、この鹿の子絞りを施す、というのも「京鹿の子絞り」ならではの技術で、他の綿や麻を染めるのとは、違う大きな特徴です。
私が四代目をする「藤井絞」は、この「京鹿の子絞り」の技術を使った帯や着物をつくる製造卸し会社です。下絵職人さん、くくり職人さん、そして染職人さん、それぞれに「こういう着物を作って欲しい」と頼む。そしてそれを束ねて商品にして、呉服店におろしています。ちなみに1915年創業で今年103年目です。ただ京都には500年を超える企業がたくさんあるので、まだハナタレです(笑)。ただ絞り染めだけで100年やっていきたとこいろは少ないので、いまようやく存在価値が出てきたかなと思ってます。

各務 京都で着物といえば京友禅も有名ですが、絞り染めの歴史が長いんですよね?

藤井 ええ。友禅は江戸時代の元禄の頃(1688 年~1703 年)に京都にいた、宮崎友禅という絵師 が、自ら描いた絵を着物生地に絵を転写する染めの技術を開発して生まれたものですからね。それまで、着物の染めの技術は絞りしかなかったんです。
だから戦国武将などは「色が多く」「柄が多い」着物を着ることで自分の富を表そうと、こぞって柄物の着物を着た。余談ですが、時代劇などでたまに、絞り染めなどではなく、友禅の衣装を着ていたりすることがありますが、あれおかしいんですよ(笑)。

各務 日本はジュエリー文化がないからこそ、着物に凝った。そのための技法の一つが、「京鹿の子絞り」なわけですね。

■赤ちゃんの“おしめ”が、
絞り染めを救った。

藤井さんが手にしているのが「雪花絞り」の反物。すてきな柄の数々に会場からもため息がもれます。

各務 以前サントリーの「金麦」のCMで檀れいさんが着ていたことから、「雪花絞り」という柄が大変な人気になったそうですね。

藤井 はい。先に申したように「京鹿の子絞り」が扱う生地は絹。いわゆる着物です。浴衣の素材である麻や綿は、扱ってはいなかったんですね。ただ、あるとき、愛知県の絞り染め技術である「有松鳴海絞り」で「雪花絞り」を見つけた。
これは「京鹿の子絞り」と違い、「板締め」という技術です。糸で縛るのではなく、生地を畳み込んで、三角形を基本にして織り込んでいきます。そして、両端を板で挟み込んで留めて、そのまま染料に着けて染める。すると、花がさいたようないい塩梅にぼやけた柄ができる。これがとても美しく、浴衣にしたら、大胆な柄が好まれるいまの空気に合うやろうなと思ったんです。なので、私どもが「京鹿の子絞り」のみならず、有松鳴海絞りも取り入れて、新たな挑戦をしたのが、この浴衣というわけです。

各務 古来からあったこの柄の浴衣や着物が、なぜなかったのでしょうか?

藤井 実はかつて「雪花絞り」は赤ちゃんの“おしめ”に使われていた柄なんですね(笑)。だから年配の方には抵抗があったのではないでしょうか。
いずれにしても、この浴衣が人気になったことで、おかげさまで、夏場も仕事が増えました。良かったことは職人さんの仕事が増えたことなんですね。また、「雪花絞り」と「京鹿の子絞り」をあわせた浴衣、あるいは「雪花絞り」を絹に施した着物など、新しい技が磨かれ、新たな挑戦ができるようになった。衰退産業の中で、これはとても価値あることなんです。
そういう意味で、今日、川上シュンさんが、どんな図柄を出されるのか。楽しみであり、怖くもあるんですけどね(笑)。

各務 では、その川上シュンさんに考えてきていただいた浴衣のデザイン。それをお見せする前に、シュンさんのお仕事をご自身から伺っていいですか?

川上 川上シュンと申します。僕はブランディング、分かりやすくいうとひとつの企業や場所などをトータルでデザインすることを仕事としています。
たとえば、本日の会場である「hotel koe tokyo」ではブランドデザインを担当させていただいています。具体的には、ホテルのロゴ、ホテル内の導線用サインや部屋番号などをふくめたグラフィックデザイン、アメニティ類、パンフレット、ウェブサイトなど、別け隔てなくやっています。「ブランドがどういう方向に進むべきか」といものをトータルで見る仕事です。

各務 ほかにも、アーティスト活動もされていますよね。

川上 はい。フランスの「ルーブル美術館」でグラフィックを展示させてもらったり、ホテルやレストランなどで飾るプリントなどを手がけています。アーティストの活動になるととくに僕の中では日本の伝統様式に、強く魅かれて、それを新たに再構築してみせる試みをしていますね。具体的には日本画や茶事の中にある「余白」や「間(ま)」を表現したいと思っています。

各務 ホテル「里山十帖」の銀箔のグラフィックもかっこいいですよね。

川上 ありがとうございます。僕の作品の中で「波」をモチーフにしたものがあるんですね。台風の翌日の湘南の海外に繰り出して、波間の写真を何枚も撮影。それをデジタルに落とし込んで、幾重にも重ねて、存在しない風景、抽象的な波をつくりあげたもの。これを、今回、浴衣の「絞り」表現できないかなと。

川上さんデザインの浴衣がこちら!

藤井 ああ、これも…おもしろいですね。

各務 どっちの意味だろう(笑)。

藤井 いや、川上さんらしいなと思う。「絵羽」といって見頃から袖まで連続して絵柄が入るわけですね。ただ、このような線を絞りで表現しようとすると、反物で染めるのはもちろん、パーツごとに染めても難しい。やるならば着物のとして仕立ててから、板をつくって、そのまま窯にドボンと沈める方法かな。相当大きな窯ですね。
あとは、どうやってこの抽象的で鋭角な線にはいった波を表現するか…。ただ、この柄はこのまま染めると反転するので、裾の模様が大きいほうが「下前」になって内側に入ってしまう。これは逆にしたほうがええんかなと。

川上 実はそこは「あえて」なんですよ。僕は東京の下町、深川生まれで祖父や祖母が着物を着て生活しているような家だったんです。「江戸っ子は裏地にこだわる」といいますが、彼らはまさにそうだった。裏地こそ派手な柄を入れたりする。だから、あえてこの波も内側に入っている部分ほど大きく、インパクトがあるほうが、かっこいいかなと。

藤井 すばらしい! まさに着物には「裏勝り」という文化がある。実は私も、これは(着用している着物)有松鳴海絞りを京都の絹でつくった着物なんですが、裏地はほら(といいながらチラ見せ)、絵柄が入っている。ええでしょ? 実は私ビーバップハイスクール世代なので、学ランの裏地に凝った時代があるのですが(笑)。この世界にはいって、何や昔からやっていたことかと。

■その時代時代に新しいことをやっていった
積み重ねの先にあるのが「伝統」

川上さんからの提案をうけ、対談もますます盛りあがった。

川上 京都の伝統文化に広く言えることだなあと感じていることなんですが、意外と間口が広いんですよね。実は僕は5年前から京都に事務所を出し、あちらにも拠点があるのですが、攻めたデザインを出しても、皆さん意外と「おもしろい」と受け入れてもらえる。

藤井 裏返せば、本当に伝統産業が疲弊していて、内側からなかなか新しい発想が出てこないという面もあるでしょうね。ただ一方で、やはり「伝統は革新の連続」なんですよ。その時代時代に新しいことをやっていった、その積み重なった先に伝統がある。

各務 なるほど。そういう意味では、浴衣や着物のお誂えも、どんどん着物を知らない人、初めての人が自由に楽しく挑戦したほうが喜ばれそうですよね。

藤井 おっしゃるとおりです。ただ少しだけコツがあって、たとえば「雪花絞り」ならば、ある程度の色と柄は指定できますが、ある程度、にじむことがコントロールできない。それも分かったうえで楽しんでもらうのがいいでしょう。たとえば、「京鹿の子絞り」ならば、絵柄を入れるわけですが、見頃から後ろ、袖まですべてに入れる必要はないという方も多いはず。それならば「4、5点のみ柄を入れて欲しい」と頼めば、むしろ粋だし、工賃も安くなります。あとは親切な呉服屋さんと知り合うことですよ。着物の世界は「それはダメだ」「ルール違反だ」という面倒な方々もいないわけじゃない。けれど、そういう排他的なことをしているうちに、産業としてダメになったんですからね。

各務 なるほど。

藤井 あとは買われる方も、少し意識を変えていただいたほうがいいかもしれない。よく着物を「手間がかかっているから…」という基準で選びがちですが、関係ないですから。絞りだろうが、刺繍だろうが、プリントだろうが、「着たい」と感じたものを選ばれたほうがいい。ここにいらっしゃるような方々は目が肥えていらっしゃるでしょうからなお、ね。

川上 そういう意味でも、藤井さん、この自由な浴衣、ぜひ創りましょう。

藤井 ぜひ!