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プリンスホテルの「KYOTO in TOKYO」イベントレポート

五感で楽しむ京文化。

Vol.2 見て、触って、感じる 京都伝統のものづくり

「KYOTO in TOKYO」と首都圏のプリンスホテルとのコラボレーションイベントのレポート後半では、グランドプリンスホテル高輪で開催された京都のものづくりの展示やワークショップをご紹介します。若手工芸作家の新作展示「新しい京都の伝統工芸」(3/16〜4/8)や、「職人の技を見る、知る、聞く」(3/21)といった伝統工芸のワークショップ、トークの数々に、京都のものづくりの魅力を再発見しました。

文・高田沙織 写真・上樂博之

‟新しい工芸“をカジュアルな感覚で楽しむ。

間近で作品を見ることができたクラブラウンジ「花雅」での「新しい京都の伝統工芸」展示。

「京都の伝統工芸」という重みを受け止めながら、今の生活になじむ新しい工芸を提案する若手作家たち。そんな彼らの作品が展示されたのは、グランドプリンスホテル高輪のクラブラウンジ「花雅」。壁一面の窓から日本庭園をゆったり眺められる、クラブフロア宿泊客限定の格別なスペースです。
本展のタイトルは「新しい京都の伝統工芸」。京扇子、京焼・清水焼、京友禅、京仏具といった伝統工芸の担い手である大西里枝さん、小川文子さん、眞鍋沙智さん、池内真広さん、岡田修さん、澤野井生さん、真下彰宏さん、室井麻依子さん、柴田明さんの9名の作品が展示されました(髙木陽介さん、森愛鐘さんの作品は別スペースに展示)。

伝統の「箔押し」をベースに色々な分野とのコラボレーションを手がける澤野井生さんの立体作品(左)と、現代の暮らしに寄り添う京漆器を手がける柴田明さんの器(右)。

コンテンポラリーなオブジェの趣をもった装飾品や実用品は、どれも確かな技術に支えられた品ばかり。一見カジュアルながら、奥深い色味と質感をたたえた作品は、グランドプリンスホテル高輪の空間にもぴったりマッチしていました。「国内外からいらっしゃるお客様に、京都の伝統工芸を知っていただける場になりました」と、グランドプリンスホテル高輪のマーケティング戦略担当・杉田理絵さんは語ります。

目と手で学ぶ、四工房の貴重な技術。

明治より108年の歴史を刻む貴賓館。華やかな内装に来場者も目を見張りました。

新しい伝統工芸の可能性を展示でみせる一方、グランドプリンスホテル高輪の貴賓館では職人が直々にその「技」を教えるワークショップを開催。かつて宮家・竹田宮の邸宅だった貴賓館の重厚な雰囲気は、京都伝統の技術を知るのにぴったりです。箔押し、京こま、京印章、和ろうそくの4つの工芸品の体験ができるとあって、多くのお客さんが集まり作業に熱中しました。

箔押しの説明をする「京金箔押 常若」の藤澤典史さん。

箔押し体験をレクチャーしたのは、京仏具の箔押し職人である「京金箔押 常若」の藤澤典史さんです。石にカシューナッツから作られた接着剤を塗って箔を貼る…という言葉にすると単純なことも、実際には細かな作業の連続で、お客さんはみな四苦八苦。「思っていたよりずっとむずかしい!」と奮闘していました。
「箔を貼る作業以上に、それまでの工程が難しいでしょ?うまく貼るには接着剤がうまく塗れていないといけないんです」と藤澤さん。
「こんなに大人数でワークショップをやるのは初めて。接着の具合で箔の光り具合がちがうとか、そういうことはやってみないとわからないことですから、ぜひ実際に体験してほしいです」

仕上げに余分な金箔を刷毛で払って出来上がり。

今回使用している金箔は、普段、仏壇・仏具に貼っているものと同じ「本物」。貼る工程も同様だといいます。
「今回は接着剤を漆の代替品にしましたが、そういう下地を塗っていること自体知らない人が多い。この体験を楽しんでもらって、京都の伝統により興味をもっていただければいいなと思ってます」
箔を貼り終えて、刷毛で余分な金箔をはらうと、つるんと輝く金の石が出来上がります。「わっ!できた!きれい…」そう言って愛おしそうに見つめるお客さんには、藤澤さんの思いが伝わったようです。

こちらは「中村ローソク」によるワークショップ。

和ろうそくの絵付け体験。見本を見ながら、慎重に絵付けをしていきます。

隣の机では、「和ろうそくの絵付け体験」を「中村ローソク」の絵付け職人さんがレクチャー。最初は賑やかに始まったものの、好きな柄をえらび細い筆で慎重に絵付けをしていると、皆が没頭して静まり返る瞬間もありました。出来上がると、やはり歓声があがります。

京こまづくり体験。中村さんは、企業勤めを辞めて、もともとの家業を継ぎ職人に転身したそうです。

こちらは、今は京都でも一軒しかないという京こま工房「京こま 雀休」の職人・中村佳之さんによるワークショップ。中村さんは、「まず、こまを回してみてください」と勧めます。
「今、こまで遊ぶことは少ないはず、大人でも何十年ぶりに回すという人が多くて、回し方がわからなかったりするようです。こまを回す感覚を思い出して純粋に遊んでもらいたいですね」

丹念に手で紐を巻いていきます。色選びも楽しみのひとつです。

京こまの最大の特徴はその材料と作り方。全国的に木製が多いこまですが、京こまの材料は木綿の平たい紐。この紐を軸にしっかりと巻き付けていき、皿状になったら最後にニスを塗って固めます。奈良時代には同じ方法で作ったものに漆をかけて皿にもしていたそうです。「昔はこの“巻いて作る”がもっと身近だったんですよ」と中村さんは言います。

こちらは、京印章を手がける「河政印房」のブース。

京印章の篆刻体験。細かな作業にみなさん熱中。

もう一つのワークショップは、「河政印房」による京印章の篆刻体験。印章はいまでも普段の生活で実用されていますが、自分で彫る機会はなかなかありません。ここで彫れるのは中国で秦以前から使われている古書体のひとつ、篆書です。まずは辞書で自分の名前の漢字を引いて、篆書での書体を調べるところから体験は始まります。趣のある複雑な書体に「え!こんな文字なんだ」と驚くことも。もくもくと彫り続け、出来上がったところで実際に朱肉をつけて押すと、想像以上の出来にみなさん喜びの声をあげていました。

“本物”を問う、職人たちのトークセッション。

貴賓館の一室で行われた、「中村ローソク」さんが聞き手をつとめたクロストーク。こちらは「京こま 雀休」の回より。

ワークショップで盛り上がる一方、京都のさまざまなジャンルの職人が集まるこの機会だからこそできる、職人同士のクロストークも同じく貴賓館の一室で開催。聞き手を務めた「中村ローソク」の田川広一さんは、3つの工房それぞれの職人の思いを引き出しながら、「本物がどういうものなのかを伝えたい」と自身の胸の内を語りました。

「中村ローソク」の田川広一さん。

「私は125年続く工房の4代目です。皆さん、和ろうそくという言葉は知っていても、実際にどういうふうに作られて、どういうふうに使うものなのかはあまり知らないのではないでしょうか?」
今ではお寺の方でも和ろうそくと洋ろうそくの違いや、和ろうそくの火のつけかたを知らない方が増えていると田川さんは言います。
「洋ろうそくはパラフィン、つまり石油製です。和ろうそくはもともとハゼロウで作られていましたが、採る人が減って今は米ぬかを原料にすることが増えています。どちらのろうそくも煙で煤をつけますが、和ろうそくの煤汚れはお湯で落とせるけれど、石油製の洋ろうそくの煤汚れは洗剤でないと落とせない。それによって仏具が傷んでしまうんです」
長い時代を経て、伝統工芸品が本来もっているメリットが忘れられていることに田川さんは警鐘を鳴らします。

トークセッション後に皆さんで記念撮影。左から、「中村ローソク」の田川広一さん、「河政印房」の河合祥子さんと河合良彦さん、「京金箔押 常若」の藤澤典史さん、「京こま 雀休」の中村佳之さん。

ほかの職人たちにも、それぞれの工芸品がもっている本来の良さや楽しさをもっと知って欲しいという思いがあります。
「ここ数年でペーパーレス化が進んで、印章の未来を危ぶむ声もあります。でも、何千年も伝わってきた“信頼のあかし”としての印章文化は無くならないと思います」と、「河政印房」の河合良彦さん。
「今回、ワークショップで扱っている篆書も、印章の長い歴史と切っても切り離せない文字です。デザイン面で見ても優れていますし、そういう文化を伝えていきたいですね」と語ります。
長い歴史を刻んできた工芸品は、そのものが京文化の一端を作ってきました。人の手を介さないデジタル技術が進んだ今だからこそ、その文化を残し伝えていきたい。その思いは、参加した他の職人さんたちにも共通しています。
「伝統工芸品についてなんとなく知ってはいるけれど、実際にどういうものなのか、どういうふうに使うのかは一般的にあまり知られていません。そこを知らせないと、買う側も本物がわからない。それを受け継いだ京都の人間として、今回のような機会を活かして本物がなにかを伝えていきたいですね」そう田川さんは語り、貴重なトークは幕を閉じました。

日本庭園内の茶室「竹心庵」でも、京都の伝統工芸品が展示販売されました。

見る、聞く、触る、味わう、薫る…という、五感をフル活用して“東京で京都を感じる”イベントとなった、「KYOTO in TOKYO」と首都圏のプリンスホテルのコラボレーション企画。職人さんたちのコーディネートをした、(公財)京都伝統産業交流センターの吉澤さんは「京都でもなかなか表だって見られない技を見て体験できる、またとない機会になりました。ぜひまた開催したいですね」とにっこり。
京都の“本物”は、東京でもたしかな手応えを残しました。