五感で楽しむ京文化 vol.1 五感で楽しむ京文化。プリンスホテルの「KYOTO in TOKYO」イベントレポート Vol.1 老舗の作り手が伝える「香りと味」

京都に根付いた「本物」の文化を体験する。しかも、自分の五感でもって「本物」に触れる。そんな貴重なイベントが、2019年3月に東京で開催されました。
首都圏のプリンスホテルと「KYOTO in TOKYO」のコラボレーションとして行われた本イベントには、京都から各界のプロが集結。
グランドプリンスホテル高輪では春の人気イベント「高輪 桜まつり2019」に合わせてワークショップや展示会を、ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町ではテイスティングイベントなどを開催しました。
前半のレポートでは「京都を感じる京都老舗のワークショップ(3/16・17)」、「KYOTO SAKE EXPERIENCE(3/15・16)」という、“香”と“味”をテーマにした二つのイベントの模様をお届けします!

文・高田沙織 写真・上樂博之

嗅覚を研ぎ澄ます、匂い香づくり体験。

静謐な空気感に包まれた会場の「茶寮 惠庵」。設計した村野藤吾は、1957年に新高輪プリンスホテル(現・グランドプリンスホテル新高輪)を完成させた建築家でもあります。

グランドプリンスホテル高輪の庭園にたたずむ「茶寮 惠庵」で行われたのは、1705年創業の香りの専門店「松栄堂」による匂い香づくり教室。惠庵は普段、お茶会や会食など予約限定で利用可能な、グランドプリンスホテル高輪のなかでも特別な場所です。数寄屋住宅の第一人者でもある建築家・村野藤吾の晩年の作とあって、一歩踏み入れると東京の真ん中にいることを忘れさせてくれる、趣深い空間が広がります。京都で親しまれてきた香りの文化を楽しむのに最適なこの場所で、匂い香づくり教室は始まりました。

匂い袋は使用環境によって香りが持つ時間が変化します。車中など環境の変化が大きい持続は3か月ほどですが、たんすなど密閉された涼しい空間では1年たってもよく香ります。

「お香と聞くと、なにが思い浮かびますか?」
教室が始まり、レクチャー担当の小田嶋修平さんがまずそう聞くと、「お線香」の声があがりました。
「そう、お線香がメジャーですね。直接火をつけるタイプのお香です。今日作るのは常温で香る巾着型の匂い袋です。そのままタンスに入れたり、小分けにして車内に置いたりするなど、いろんな楽しみ方ができますよ」
本来は香料の粉を直接混ぜ合わせて調合しますが、今回は香りの組み合わせを試行錯誤しやすいよう香料を砕いて固めたタブレット状の香りの粒を使って調合を体験。ラベンダー、桂皮、丁子(ちょうじ)、かっ香、甘松(かんしょう)、竜脳(りゅうのう)の5種に加えて、調合師が作った2種の仕上げの香りを自由に組み合わせていきます。

香りの粒とシートは松栄堂のオリジナル教材。「苦手だなと思った香りでも、一粒は入れると深みが出ますよ」と小田嶋さん。

教室が進むにつれ、部屋にはよい香りが充満していきます。
「まずは香りの粒をひとつずつ手に取って香りのイメージをつかみましょう。といっても慣れないと難しいと思います。最初は単純に、好きか嫌いかで大丈夫ですよ」
それぞれの香料の特徴や、使い方のこつ、原産地などを丁寧に説明していく小田嶋さんのお話に、お客さんたちは香りに感覚を研ぎ澄ませながら聞き入ります。
悩みながらも直感で香りの粒を置いていくお客さんたち。選んだ粒をメッシュ袋に入れて軽く砕いてから巾着に詰めたら匂い袋の完成です。

東京出身ながら10年間京都に在住し、すっかり京都人の小田嶋さん。現在は松栄堂東京支店に所属しています。

意外にも、香料の材料はほとんどが海外産だといいます。
「香りの文化の面白いところですね。材料は日本のものではないのに、香りをかぐと日本らしさを感じる。香りを楽しむという営み自体が日本の文化なのだと思います」と小田嶋さん。
「日本の香文化と京都という街は、密接な関わりがあります。長いあいだ香り作りを続けてきたなかで、知らず知らずのうちに松栄堂製品やワークショップにも香りの文化が蓄積されているのだと改めて感じます。私も匂い袋を普段からカバンにいれているのですが、京都ではお香がとても身近な存在です。肩ひじ張らずに香りを楽しむ文化を広めていきたいですね」

香老舗 松栄堂
(本店)京都市中京区烏丸通二条上ル東側
https://www.shoyeido.co.jp
*東京にも、京都館のれん分け店舗として銀座店・人形町店があります。KYOTO in TOKYOの「PARTNERS」を参照ください。

季節とともにある「宇治茶」をどうぞ。

石臼で抹茶を挽く体験には、想像以上の重労働に一同驚き。

お茶の楽しみ方が広がっている現在、やっぱり人気なのが緑茶。なかでも京都で生産される「宇治茶」とともにあるお茶文化は、季節の移ろいや生活を楽しむ術を教えてくれます。そんな宇治茶の基本をレクチャーしてくれたのは祇園辻利の井出由香さん。茶寮 惠庵の茶室で、「知る」、「挽く」、「合わせる」、「淹れる」、「飲む」の5つの工程で宇治茶についてじっくり教えてくださいました。

今回は、普段からお茶を愛飲する方も多く集まりました。皆さん井出さんの話に真剣に耳を傾けます。

机の上に並べられた道具籠には桜柄の紙がかけられ、「今日は桜仕立てで春らしくしてみました」とほほ笑む井出さん。早速の風情にため息を漏らしていると、まずは宇治茶を「知る」レクチャーが始まりました。
「本店の近くにある建仁寺の茶園から摘んできた茶の葉です。どうぞ回してごらんになってください。これから新芽が伸びてきて、新茶のシーズンを迎えます」
朝一番で京都から東京にやってきたという井出さんが差し出した茶の木の枝には、分厚くつやのある葉がたくさん。ここから出る新芽がいつも飲んでいるお茶になるのかとお客さんは興味深々です。

京都から摘んできたばかりだという、葉をつけた茶の木の枝。

自分でブレンドした玄米茶で1煎目と2煎目を飲み比べたり、隣の人と交換したりして会場は大いに盛り上がりました。

「関東で広く飲まれている緑茶は静岡茶で、宇治茶とは産地だけではなく製法も違うんですよ」と井出さん。
宇治茶の条件は3つ。京都府産の茶葉を50%以上使っていること、宇治茶製法で作られていること、そして最終加工地が京都府であること。宇治茶製法は、蒸しの後、揉みと撚りを繰り返すことで独自の味わいを生んでいるそうです。
宇治茶を知ったあとはそれぞれ好みの配分で玄米茶をブレンド。淹れ方を学んだら、いよいよ試飲。湯呑にそそぐだけで、「ああ、いい香りがする!」と声があがりました。さっぱりとした中に深いコクをたたえた味わいを、皆さんじっくりと楽しんでいました。

日本茶アドバイザーの資格もある井出さん。「宇治茶は静岡茶よりも色が薄いので、ちゃんと出ていない!と言われるのではと少し心配していましたが、楽しんでいただけてよかったです」

「このようなお茶の体験イベントは京都でも時折行ったことがありますが、東京で開催するのは今回が初めてなので、いつも以上にプレッシャーがありました」と、井出さんは話します。今回は、京都と東京の水質の違いを考えて軟水のミネラルウォーターを準備したそうです。そこには、宇治茶はもちろん、京都の日常的なお茶の楽しみ方を伝えたいという祇園辻利さんの思いがあります。
「京都では、季節とともにお茶があります。桜が散った後には新茶、夏の暑さには冷煎茶、夜長の秋は壷切茶を飲みますし、年末年始は梅と昆布をいれた大福茶で無病息災を願うんですよ」
井出さんもお店の方々も、お茶の話をとても楽しそうにお話していました。そんなお茶の喜びがこの日のお客さんにも伝わったようです。

宇治茶 祇園辻利
(祇園本店)京都府東山区祇園町南側 573-3
*東京にも、京都館のれん分け店舗として「祇園辻利」と「茶寮都路里」があります。KYOTO in TOKYOの「PARTNERS」を参照ください。

京都の水、米、そして酵母が生む「酒」。

「WASHOKU 蒼天 SOUTEN」の入り口に設けられたSAKEバーは、赤樫の一本カウンターで日本酒を楽しめる、外国人にも人気のスポットです。

一方、ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町の「WASHOKU 蒼天」のSAKEバーでは、KYOTO SAKE experienceと題して、東京の方には目新しい京都の味覚、日本酒がふるまわれました。京都産の日本酒を試飲して楽しむお客さんをもてなしたのは、京都市産業観光局の恵良陽一さんと京都市産業技術研究所の廣岡青央さん。着物姿が板についたお二人が繰り広げる日本酒の知識に、ふらりと立ち寄ったお客さんも酒を片手に聞きいりました。

日本酒について語り出すと止まらないお二人。京都市産業観光局の恵良陽一さん(右)と京都市産業技術研究所の廣岡青央さん(左)。

「実は、京都は日本酒の生産量が全国二位なんですよ。伏見地区に20ほど酒蔵があります」
そう教えてくれたのは恵良陽一さん。京都市では平成17年から日本酒を伝統産業として扱っており、京都市産業観光局伝統産業課の恵良さんはその旗振り役です。
「京都は観光地のイメージが強い街ですが、本当の魅力は生活にあると思います。このお漬物も召しあがってみてください」
そういって差し出したおつまみは、「京つけもの西利」の千枚漬けと赤かぶの漬物。
「いまちょうど、漬物が仕上がる時期だからお持ちしました。こういう場を通して、京都の日本酒はもちろん、京都の生活文化を伝えていきたいと思っています」

ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町 料飲支配人の内山進さん。「これを機に当ホテルでも京都のお酒を取り揃えていきたいです」

この日用意した日本酒は、もちろんすべて京都伏見産。さらに、酵母も京都産だとか。その酵母を作っているのが廣岡さんです。
「普段はお酒の酵母を育種しています。酒質を決めるのは酵母。発酵の過程で酵母が味や香りをだすので、どんな酵母を使うかでお酒の味が決まるんですよ」と廣岡さんは熱っぽく語ります。「京都の日本酒」をブランドとして成長させるため、京都産の米、水、酵母を使った日本酒づくりに、酒蔵や稲作農家と二人三脚で取り組んでいるそう。日本酒のプロ中のプロのお二人の話に耳を傾けながら試飲を楽しむお客さんが後を絶ちませんでした。
ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町 料飲支配人の内山進さんも、その様子に「プリンスギャラリーは東京駅からも近く、海外ゲストにとっては新幹線で京都へ行く玄関でもあります。東京で早速京都の味を味わえて楽しんでいただけたようです」と満足げでした。
味と香りで京都を満喫したなら、次は“見て、触って、京都を感じる”後編へ続きます!