京都ナポリタンリップ

喫茶文化を象徴するフード、ナポリタン。
ナポリタンを提供する京都の喫茶店にインタビューします。
味のこだわりやその店の歴史、
京都のお昼の参考になるような情報をお届けします。
たぶん、読み終えたらナポリタンの口になるはず。

ナポリタンリップ#9京都「珈琲 逃現郷」現実逃避した先で具沢山なナポリタンを

大宮今出川を少し北へ、その先の小学校前にひっそり佇む喫茶店、逃現郷。
ご店主自らリノベーションされたという店内は、町屋の面影もさることながら、どこかオリエンタルな情緒も漂います。
今回は、一度来ればふと恋しくなってしまうその味と空間の秘密をご店主にちょっぴり教えてもらいました。
-お店の名前「逃現郷」の由来について教えてください。
読んで字の如しで、現実逃避できる時間と空間を提供したいという思いからです。
この店をやる前、友達に「喫茶店ってどんな仕事なの?」と聞かれて、僕は「現実逃避して、ちょっと気分を切り替える。飲食の質というよりも、その時間と空間で気分をリフレッシュさせる意味合いの方が大きいと思っている」という話をしたんです。そこで口をついて出たのが「現実逃避……逃現郷……?」みたいな。
元々、任天堂とか壺中堂とか、中国故事をもじったようなネーミングが、音と意味が一気に伝わるので僕はすごく好きなんです。そういうのないかなと思っているときに、自分の口から出た逃現郷という音が「あっ、いけるかも」と。
だから「店やりたいけど無理だよなあ……」という葛藤は2,3年あったのだけれど、先に思いついた屋号を自分の中ですごく気に入って、これを現実の場所としてどこかに作りたいと思ってできあがったのが、これです。
-ご自身で町屋を改装されたとお聞きしましたが、それはどのようにされましたか?
元々大工仕事がすごく好きで、その延長線でセルフリノベーションをすることができるんじゃないかと思ってしまったんです。建物自体が古かったのと、開業資金の問題もありますね。業者さんや友達にも手伝ってもらったのでまるっきりとは言わないけれど、丸4ヶ月かけて今見えてる範囲くらいのことはほとんどやりました。朝の8時に来て、1日10時間以上ずっとやってました。
もう、本当に「やるんじゃなかった……!」の一言ですね(笑)
ナポリタン ¥950
-ナポリタンの具材について教えてください。
使っている具材は、ピーマンと玉ねぎとソーセージ。それくらいのシンプルなものであまり個性的なことをしようとはそもそも思っていないんですけれど、ナポリタンって結構単調な味なので、麺とのバランスとして具材がちょっと多いくらいの方が最後まで食べやすいかなと思って、量的なものをちょっとこだわってるかな。
-色鮮やかな具材が特徴的ですが、こだわりはありますか?
ないですね(笑)
ないですけど、玉ねぎやピーマンは結構な厚みで、食感というか存在感は残すくらいのサイズで切っています。それを蒸し焼きして、生々しさが残らないくらいの微妙な火加減で火を通すように心がけています。
-ソースについて教えてください。
ソースはケチャップベースで、いろいろと混ぜてまろやかな感じにしています。あまり酸味があるタイプは個人的には好きじゃなくて、始めたときは10種類ほどケチャップを買って味見しました。これがどう見ても味に一番影響を及ぼしている材料なので、安定して供給できるかというのも加味して、今のケチャップに落ち着いています。
-ナポリタンというメニューができたのは、どういった経緯でしょうか?
うちはもともとカレーが人気メニューであって、カレーばかり飽きるよなと思ってオムライスをやって、その2択というのもなと思ってナポリタンをやるようになったんです。パスタの中でも、昔ながらの喫茶店という感じのメニュー構成にしようと思って、ナポリタンになりました。まあ店の中での需要供給のバランスを取った結果という感じですね。
-ナポリタンはどんな存在ですか?
基本的にうちは珈琲屋さんなので、そんなに凝りまくったフードをしようとは思っていないんですよ。
材料も手間暇も凝って渾身の一皿みたいなことをやっていたら、喫茶店という場所の持つ「軽食」のいい意味での軽さが、どんどん重くなっていっちゃうと思うんです。食べてがっかりはもちろん嫌なんだけれど、期待してなかったのに意外に美味しいやんとか、なんとなくまた食べようかなって言ってもらえる、そんな距離感のメニューにしたいなと思ってやっています。

ナポリタンって、そう言われたらみんな想像できるくらい世の中に溢れているメニューじゃないですか。それのどこをどう研ぎ澄ますねんみたいな。あまり奇を衒ってもうちらしくないというか、ナポリタンじゃなくなっていくし……
みんなが親しみを感じている料理、その反面よく食べてもいる料理で、微妙な差で好きともイマイチとも言われるものだから、逆に立ち位置が難しいんですよね。だから僕はそんなに個性個性と思ってやっているわけじゃなくて、これだったら自分が美味しいなと思える、美味しいと思ってくれる人が多いだろうなと思える、そういう一般化みたいなものも大切だと思っています。
-自家焙煎について教えてください。
自家焙煎はね、はじめは外注で焙煎士の方にお願いしていたんですけれど、嫁さんが体調を崩して仕事をやめたタイミングで「この店の焙煎をやってみたい」と言い出したんです。いろいろと思案した結果、断る理由もないなと思って僕がGOサインを出しました。
それから嫁さんが退職金で焙煎機を買い、修行に行って、うちで自家焙煎が始まりました。今は半分僕、半分嫁さんがやっています。
僕自身は特に焙煎したい気持ちがあったわけじゃないんだけれど、やってみると楽しいし、自分のところでやってるから、いろいろと小回りの利く豆の管理ができますよね。
-逃現郷さんといえば印象的な、店内の音楽について教えてください。
喫茶店に来てのんびりする時間っていうものが、手持無沙汰で退屈な時間っていうものに変わらないような仕掛けをたくさんしているつもりです。本棚の本もそうだし、ルービックキューブもそうだし、目のやり場としてのポスターもそうだし……
そのうちの一つが音楽ですね。例えば、ぽつんと年配のお客さんがいるときに、そのお客さんが聴いて落ち着く、あるいは違和感のない音楽を流すとか。もし速い尖った音楽を流していたら、店としては大丈夫でも、一ヶ所にすごく負荷がかかっているような感じがして。
うちではそういうBGMの使い方はしたくないし、バイトにもそうならないようにとは言っています。
自分たちが好きなものを聴いているという面もあるけれど、お客さんの店の中の居心地や空気感を調整するツールの一つですね。
-どんなお客様が来られますか?
学生さんが6割で、20~40代が2,3割、年配のお客さんが1割かなあ。老若男女というか、分母は広めにあってほしいなと思っています。
エリア的に学生さんがカフェのメインになるのはどこでも同じなんですが、ここは若者の独壇場みたいな場所にもしたくないし。
あと、僕の中では2回目以降来てもらってお客さん。それでなにか差別するわけではもちろんなくて、ネットの情報や通りすがりで、偶然の結果として店に入るということと、そのあと内容を知った上で、もう一度ここをゴールとして来てくれることとは、全然性格の違う話だと思うんです。
お客さんが学生さんであろうと年配の人であろうと、2回目以降また来たいと思える、なんかお茶飲みたいなってときに思い浮かぶ、三軒のうちの一軒くらいに入っていたらいいな、そういう思いで店を運営しています。
インタビュアーによる味の感想
ナポリタンが運ばれてきて最初に目に飛び込んだのは、やはり玉ねぎとピーマン。大きくてつやつやです。たくさんの具材がまるで麺を覆い隠すかのように乗っていて、とても食欲をそそります。早速食べてみると甘くてシャキシャキ。まろやかなソースとの相性も抜群です。最後まで新鮮な気持ちのまま、あっという間に完食してしまいました。
何度でも食べたくなる味、また何度でも訪れたくなる居心地のよさの裏には、喫茶店を愛するご店主の心遣いが行き届いていました。
今日のリップ
住所:〒602-8441 京都市上京区大宮通今出川上ル観世町127-1
営業時間:12:00〜24:00 (23:00 L.O.)
定休日:木曜日
アクセス:地下鉄烏丸線今出川駅より徒歩15分 市バス今出川大宮より徒歩3分
電話番号:075-354-6866
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