書店主のおすすめ「京都本」

京都寺町の古書店「吉村大観堂 」店主がおすすめする京都の本3選

吉村大観堂_外観
電気街の中にある、山岳書を取り揃える古書店

四条通を挟んだ寺町通の南側、さびれつつある電気街の中に吉村大観堂はあります。 店の表にあるショーウィンドウには古書が並んでいて、この店が古書店であることを控えめながらに主張しています。本が雑然と並ぶ店内は、和綴じの古書から最近の小説までバラエティ豊かな品揃えです。
店に入って右奥に、壁いっぱいの山岳書が並ぶ一角があります。ハンドブックのような本 から図鑑、写真集、文庫本までとにかく山に関するあらゆる本があります。京都の古書店で山岳書と言えば吉村大観堂というくらいで、山岳書を買いにくるお客さんが昔は結構いたようですが、最近は少なくなったとのこと。そのせいか店の隅に固まった山岳書たちが妙にノスタルジックな雰囲気を醸し出していて、この古書店の味を引き出しているように感じます。もちろん山岳書以外も幅広いジャンルを網羅している吉村大観堂。丁度良い広さの店内で落ち着いて本を選べる、ゆったりとした時間の流れる古書店です。

吉村大観堂_似顔絵

店主の吉村さんは大観堂書店の三代目で、気さくでとても話しやすい方でした。 本やお店についても丁寧に説明して下さりました。吉村さんは書店のやりがいを本 を買ってもらう喜びと、仕入れをする喜びがあると仰っており、とてもお仕事に誇り を持っている方なんだなと感じました。店主さんとお話しながら本を選ぶのも一つの楽しみ方だと思います。
吉村さんおすすめの京都本を 3 冊ご紹介します。

吉村大観堂_「寺町通 すごろく」

京都に暮らしながら読みたい本

『寺町通 すごろく』著者不明 (¥77,000+税)
このすごろくは大正時代に発行された版画です。もちろんただのすごろくではなく、寺町 通のお店の商品をモチーフにしたマスになっていて、マスの中にそれぞれのお店の商品 と、うたい文句が刷られています。要するに遊ぶことのできる寺町通の広告といえば良いでしょうか。それまで浮世絵などの美術作品が中心だった私の版画のイメージが、一気に崩れ去った気がします。赤を基調にした、あでやかな版画なので、額装して眺めて 楽しむのがいいかもしれません。このすごろくの裏面は、全て正式なお店のスポンサー 広告になっています。手描きのイラストや丸い文字に右読みの文章など随所に時代を感じますが、そのなかで一番大口のスポンサーが「ふとんの西川商店」なのは今も昔も変わらないそうです。
時代を感じるこのすごろく。情報量がとても多いので、読み込むほどにおもしろさが増してくる一枚になっています。

吉村大観堂_「都花月名所」

京都へ訪れる前に読むべき本①

『都花月名所』 秋里離島・著 (¥38,500+税)
都花月名所は、おすすめ「京都本」でも頻繁に登場する秋里離島の著作である江戸期の版画です。この作品は有名な都名所図会がヒットした後に作られたもので、京都の名所を案内する持ち運びに便利な携帯サイズのガイドブック的存在となります。しか
し離島が書いた他の名所図会と異なり、風景画が少なく名所の説明がほとんど文字だけという特色がこの本にはあります。都花月名所という題名からわかる通り京都の花や月がよく見える名所をいくつも紹介するこの本ですが、その中で風景画があるのはわずか三か所だけです。
離島はもともと俳人として経歴を持つ読本作家でした。風景画を多く載せた都名所図会などの作品は大きなヒット作となりましたが、離島自身は画でなく自分の得意な文 章中心の作品を作りたいという思いが強く、この本を作ったのではないでしょうか。くずし字ばかりだと読みにくいですが、この本は律儀なことにふり仮名がうってある箇所 がいくつもあります。古文の資料として “崩し字を読む挑戦” をするのもいいかもしれ ません。

吉村大観堂_「さよなら京都市電」

京都へ訪れる前に読むべき本②

『さよなら京都市電』 安斎寅夫・著 (¥1,000+税)
この本は昭和53年まで京都市内を走っていた京都市営の路面電車「京都市電」が町を走る風景を記録した、京都市交通局発行の記念冊子です。分厚く重い冊子が京都市電の廃止を惜しむ当時の市民の気持ちと重なって、読む前はなんだか重い気持ちになります。中にある写真はもちろん京都市電を撮影したものばかりです。
京都に長く住む方はみな知っている京都市電が走る風景も、公園にある市電しか知らない学生の私には最初は少し物珍しい風景に写りました。けれども、表紙に見られるような京都の社寺仏閣と濃緑の車体が風景に溶け込んで絶妙な塩梅にマッチしている写真の数々を見ると、その風景もだんだん見慣れて次第に市電の雰囲気に惹かれていきます。激動の時代の中で83年生きた市電の記録を白黒からカラーまで、懐かしむ人から初めて見る人まで老若男女楽しめる必携の一冊です。

吉村大観堂_外観

吉村大観堂

住所:〒600-8033 京都市下京区寺町通仏光寺下る恵美須之町545
営業時間:10:00〜18:30
定休日:三が日・お盆
アクセス:阪急京都河原町駅 徒歩4分
電話番号:075-351-9335


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